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音楽監督からのメッセージ
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2013年

​アズールの新たな出発に期待すること

アズールを初めて、10年余の時間が経ちました。当初は「ドレ会」のメンバーの中からやる気のある人が参加する形だったのが、気がついてみれば、発足当初のメンバーは圧倒的に少なくなり、新しく入ってきた人たちがほとんどを占めるオーケストラになりました。

 10年の間に、私の周囲も激変しました。ヴァイオリンの教え手、そしてアンサンブルの指導者としては、10年の間に蓄積したことも多く、それなりに進化していると思いますが、CONSONOを立ち上げ、生徒も増え、時間的な余裕もなくなってきました。そんな時期に、「アズールとは何か」を考えさせられる出来事がいくつか起こりました。

 アズールがどのようなものを目指してきたかは、2002年に書いたメッセージを下に呈示します。基本的には、その意思、意欲を強く持ち続けることができるかどうかが問題になりました。オーケストラは、続けているとさまざまな「勤続疲労」を起こします。アズールも、次第に「参加することに意義がある」かのごとく、「普通のオーケストラ」になりかけてしまったのです。そこで、体制を新たにして、原点に立ち返り、アズールが、自ら進化しアンサンブルを向上させることを目的とする「戦闘集団」になるように、巻き直しを図ることにしました。

 指導者としての「レイトスターター」である私に、残された時間はそれほど長くはありません。自分が持っているものをどれだけ皆さんに伝えることができるのか、これからが「勝負」だと思っています。

 これからのアズールが向かうものは、「ひよこ」を脱してこそ求められるものです。ひとりひとりのメンバーがそれをしっかりと胸に刻んで、アズールが進化を止めないオーケストラになるように、私も全力を尽くしたいと思っています。

2003年

アマチュアの誇りをもって目指すもの

 「大人になってから楽器を始めた人たちを中心にして、合奏団を作らないか?」、という相談をされたとき、「どうせなら、どんな合奏団もやっていないことができないか」と考えました。それは、「基本に忠実な合奏体ができないだ ろうか」ということでした。

 アマチュアとして30年余りヴァイオリンを弾いてきて、アマチュアにはもったいないような幸せな体験もたくさんさせていただきました。それを少しでもたくさんの人に伝えたい、という思いが、アズールのいわば「前身」である、「ドレ会」のトレーナーを続けてきた理由でした。そして、 アズールを立ち上げるとき、「基本に忠実に」やってみようと考えたのは、これ までいろいろなところでアンサンブルを経験してきた中で一番辛かったことが、「基本を考えない・考える余裕がない」というオケの実態だったからでもあります。それに対する何らかの回答が出せないだろうか、と、以前から考えていたこ ともありました。実際に練習を始めてからは、こういったことが自分の中でのモチベーションを支えることになりました。

 ここで言う「基本」とは、「楽譜に書いてあることをできるだけ忠実に演奏する」ということに尽きます。問題は、この「書いてあること」の意味にありま す。

 幾つかの例を挙げましょう。

 まず、楽譜には「音の高さ」が書いてあります。当たり前のことのようですが、 この「音の高さ」を正確に再現することは容易ではありません。例えば、モーツァルトの曲はほとんどが「スケールと分散和音と和声進行」で出来ています。しかし、この「スケール」一つを取り上げてみても、「正確なスケール」を理解することは大変なことなのです。ト長調のスケール(ヴァイオリンにとっては一番理解しやすいものでしょう)ですら、美しく演奏することは大変です。しかし、正確なスケールは、とても美しいものなのです。

 アマチュアの合奏団の多く(多くのプロも、と、敢えて言ってしまいますが) が、「そこそこの音程」で満足して、「曲を演奏する」ことに重きを置いていま す。弦のトレーニングをしているときに「音程」のことを細かく言い始めると、「そんなことはできない」という一言で済まされてしまうことがほとんどです。

 多くの先達たちが、「弦楽器にとっての正確な音程」について頭を悩ませてきま した。(弦楽器だけではありませんね。音程・和音そのものが、古くからの「難題」でした。)多くの研究がなされ、多くの成果を見ることが出来ます。しかし、そもそも「固定してある五度で演奏する」以上、音程上、いろいろな矛盾が生じます。ピアノは、楽器の発展段階で「平均率」というシステムを得て、一応、「完成された」ものになりました。(だから、ピアノには「音程」が存在しないように思われています。でも、実際はピアノにも音程の違いは存在します。)しかし、弦楽器は、五度を自分で合わせられるために、いまでも種々の説があり、いろいろなことが言われています。ヴァイオリンの関係のサイトをいくつか眺める だけで、そのことははっきりするでしょう。「調弦は純正調で」という先生も 「平均率で」という先生もいらっしゃいます。このことだけでも、弦楽器の音程というモノがいかに難しいかを知ることが出来るでしょう。

 また、「楽譜に書かれていること」を理解するためには、たくさんの「基礎知識」が必要になることがあります。特に古典を演奏する場合、作者の意図を知る ことはとても難しい作業になります。楽譜の意味を理解すること・・・これも重要な作業です。

 もう一つ、大きな目標があります。それは、「合奏団にいて楽器が上達する」と いうことです。 合奏する、ということは、ある意味で「技術の消費」になってしまうことがあり ます。一人で一生懸命練習した蓄積を、合奏の場で消費してしまう、ということ です。多くの心ある先生方が、始めたばかりの人たちに「アンサンブル禁止」を 申し渡しているのも、とてもよくわかります。ヴェテランでも、オケで弾いていると「下手に」なることがよくあります。 この「常識」に挑戦することも、目的でした。そのためには、合奏をしているときに「技術が荒れない」注意が必要です。さらに一歩進んで、楽器の奏法そのものも向上するように、いろいろな工夫をしてみたいと思っていました。 大人になってから楽器を始めた人に与えられている時間は、子どもの頃から十分 に時間をかけて上達してきた人たちから比べて、はるかに短いものです。その中 で、楽器も上達したい、アンサンブルも楽しみたい、という「欲張りな」要求に 応えられる場にしたい、と考えています。

  アズールのメンバーの多くは、大人になってから弦楽器を始めた「レイトスター ター」です。ですから、もちろん技量的には「下手くそ」とされる人がほとんど です。しかし、本音を言ってしまうと、変な先入観がないだけに、本当に「美しいもの」に対して厳しくあってくれるのではないだろうか、という期待があった ことも事実です。この期待は、練習を積み重ねてみて、裏切られることはありませんでした。実際に練習の約三分の一をスケールなどの基礎トレーニングに費やすことができるのも、みなさんが「本当に美しいもの」を真剣に希求されているからなのです。最近は「たまに」美しい響きが聞こえてくるようにもなりました。この「点」が「線」になり、面になったとき、合奏団にいる人たちに、私が得てきた「幸せ」の幾ばくかを感じていただけるのではないか、と思っていま す。

 まだまだ「ひよこ」以前の合奏団ですが、アマチュアの誇りを持って、本当に 「美しい」と感じられる合奏ができるように・・・微力ですが、こんな「究極の 目的」を実現するためのお手伝いができれば、こんなに幸せなことはありません。

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